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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)591号 判決

被控訴人 三徳信用組合

理由

控訴人が昭和三〇年四月二〇日訴外同和鉄線亜鉛鉱株式会社に対し、金額二六〇、〇〇〇円、満期昭和三〇年七月一七日、支払地および振出地いずれも大阪市、支払場所株式会社三和銀行深江支店なる約束手形一通を振出し、訴外会社は同年四月二三日右手形を被控訴人に裏書譲渡し、被控訴人は所持人として同年一二月二三日右手形をその支払場所である株式会社三和銀行深江支店に呈示して支払を求めたが、拒絶されたことは、当事者間に争がない。

控訴人は、本件手形は控訴人が訴外会社に貸与した融通手形であつて、訴外会社に対し本件手形を割引したのちにこれが融通手形であることを知つた被控訴組合の常務理事松浦某と訴外会社専務取締役安達敏寿の間に本件手形を訴外会社振出の約束手形と差しかえること、差しかえた上は本件手形を被控訴人より訴外会社に返還すべきことの契約が成立したのに、被控訴人はその後これを返還することなく、満期後五カ月を経過した昭和三〇年一二月二三日突然呈示におよんだものであるから、控訴人に支払義務がないと抗弁するけれども、訴外会社と被控訴人との間に控訴人主張の契約が存在し、かつ被控訴人が約旨に反して訴外会社に本件約束手形を返還しなかつた事実も、単に訴外会社が被控訴人に対し対抗することのできる抗弁に過ぎず、振出人たる控訴人がこれを援用し得ないこと勿論であるから、控訴人の抗弁は理由がない。

もつとも控訴人の主張は、右被控訴組合と訴外会社間の手形さしかえの契約によつて本件手形の振出人の債務そのものが消滅したというにあるとも解せられるが、そのような合意が被控訴組合と訴外会社間になされたことは証拠上認めることができないから、その意味においても控訴人の抗弁は採用できない。

そうすると、控訴人は被控訴人に対し、本件約束手形金二六〇、〇〇〇円とこれに対する呈示の後である昭和三三年二月二〇日以降支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、これが支払を命じた原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。なお約束手形の所持人がその呈示期間内に支払のための呈示をせず、呈示期間経過後に約束手形上に記載された支払場所において呈示をなした場合においても、約束手形の振出人は右呈示のとき以降遅滞の責を負うと解すべきものであるから、控訴人としては昭和三三年二月一九日以前の遅滞期間についても損害金支払の義務があるわけであるが、この部分については被控訴人が不服を申立てていないから、原判決を維持するほかはない。

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